北海道の広大な大地で絶大な圧倒的存在感を誇り、道民の生活インフラとして欠かせない存在となっているコンビニエンスストア「セイコーマート」。顧客満足度調査において全国展開の大手チェーンを抑え、長年にわたりトップクラスの評価を獲得し続けている同チェーンは、独自の「持続可能な地域密着型ビジネスモデル」を確立したことで知られています。店内で手作りされる温かい「ホットシェフ」の惣菜や弁当、北海道産の豊かな食材を活かしたリーズナブルな自社ブランド商品、そして過疎地や離島にも店舗を構え地域の生活を支える姿勢は、まさに北海道のソウルフードでありライフラインです。今でこそ「セコマ」の愛称で全国的にも高い認知度を誇るセイコーマートですが、その歴史は日本におけるコンビニエンスストア黎明期の昭和40年代、札幌の酒屋から始まった試行錯誤と挑戦の歩みでした。
セイコーマートの歴史は、1971年(昭和46年)8月に始まります。大手コンビニチェーンが日本へ本格上陸する以前のこの時期、札幌市北区に第1号店となる「セコマ」の前身店舗(当時の名称は「ハセガワショップ」や酒屋の業態転換による店舗)が誕生しました。創業者は、酒類の卸売りを手掛けていた丸ヨ西尾(現・株式会社セコマ)の社員であった赤尾昭彦です。
当時、酒類の販売自由化や大型スーパーマーケットの登場により、従来の個人経営の酒販店や米屋は厳しい経営難に直面していました。赤尾は、廃業の危機に瀕する地元の酒販店を救うため、アメリカで発展しつつあった「便利なお店(コンビニエンスストア)」の概念に着目しました。酒類だけでなく、食料品や日用品を早朝から深夜まで販売する新しい店づくりを提案し、ボランタリーチェーン(加盟店の独立性を保ちながら協同で事業を行う仕組み)として店舗網を広げていきました。
1977年(昭和52年)には運営会社となる「株式会社セイコーマート」を設立。店名の「セイコー(Seiko)」は、創業母体である丸ヨ西尾の社長であった西尾長光の「西」と「光」から「西光(せいこう)」、そして「成功」の願いを込めて名付けられました。
セイコーマートが大手チェーンと一線を画し、独自の成長を遂げた最大の理由は、早くから推し進めた「サプライチェーンの垂直統合(内製化)」にあります。
一般的にコンビニエンスストアは、外部の食品メーカーや物流業者と契約して商品を店舗に並べます。しかしセイコーマートは、北海道という広大で独自の物流網が必要とされる地域において、自社で原料調達から製造、流通、配送、そして店舗販売までを一体化して行うシステムを作り上げました。
1970年代後半から1980年代にかけて、自社物流センターの構築や物流子会社の設立を進め、配送効率を飛躍的に高めました。さらに、北海道産の高品質な農産物や水産物、生乳に直接着目し、自社工場でアイスクリームやパン、飲料、惣菜などを製造するプライベートブランド(PB)の開発を本格化させました。これにより、高品質でありながら「100円惣菜」や「100円ジュース」に代表されるような、驚異的な低価格とおいしさを両立させることに成功したのです。
セイコーマートの歴史におけるもう一つの巨大なイノベーションが、1990年代半ばから本格導入された店内調理システム「ホットシェフ(HOT CHEF)」の誕生です。
1994年(平成6年)頃から実験的にスタートしたホットシェフは、「コンビニで温かく美味しい出来立ての提供はできないか」という発想から生まれました。店舗の厨房で米を炊き、手作りのカツ丼やフライドチキン、手作りおにぎり、焼きたてパンを調理して保温ケースに並べるこのシステムは、従来の「工場で作られた冷たい弁当をレンジで温める」というコンビニの常識を根底から覆しました。
出汁の効いたトロトロ卵の「カツ丼」や、ジューシーで香ばしい「フライドチキン」は爆発的な大ヒットとなり、セイコーマートのアイデンティティを確立する最強の看板メニューへと成長しました。
また、セイコーマートの歴史を語る上で欠かせないのが、「地域密着と社会インフラとしての使命感」です。大手チェーンが採算性を重視して出店を見合わせる人口の少ない離島や過疎地域であっても、セイコーマートは「地域の生活を守る」という理念のもとで積極的に出店を維持しました。自社の効率的な物流ネットワークがあるからこそ、遠隔地であっても物流を維持し、住民の生活必需品を届けることが可能だったのです。
この姿勢が社会的に大きく見直されたのが、2018年(平成30年)に発生した北海道胆振東部地震でした。道内全域が大規模停電(ブラックアウト)に見舞われる中、セイコーマートは独自の非常用電源や自動車のバッテリーから電力を供給し、道内約1,100店舗の9割以上で営業を継続しました。温かいご飯やおにぎりを提供し続けたその対応は、被災した道民の大きな支えとなり、全国的にも「災害に強い最強のコンビニ」として絶大な称賛を集めました。
2016年には、持続可能なブランドの確立とグループ全体の連携強化を目指し、社名を「株式会社セコマ」へと変更しました。原料生産から加工、物流、販売までを一貫して手掛ける「食品総合企業」としての足腰を強め、北海道内だけでなく関東エリア(埼玉、茨城)への店舗展開や、全国のスーパー・他チェーンへの自社商品の供給など、北海道の美味しい恵みを全国へ届ける取り組みも進めています。
札幌の街角に開かれた1軒の酒販店から始まり、北海道の食材を活かした垂直統合モデルの構築、ホットシェフによる出来立て食文化の発明、そして災害時にも地域を照らし続ける社会インフラへの昇華へ。セイコーマートの歴史は、安易な効率主義に流されることなく、地域の暮らしと食にどこまでも真摯に向き合い続けてきた、日本流通史における偉大なイノベーションと誇り高き歩みそのものです。